現行刑法における贈賄罪規定の新しいポイント

改正の背景事情

1999年に成立した刑法は、ベトナムの経済、社会の発展に合致する変更を行うため2009年に修正されながら、15年以上効力を維持してきました(番号15/1999/QH10の法律が番号37/2009/QH12の法律によって修正されました。以下、「旧刑法」といいます)。2016年7月1日からは現行の刑法(法律番号100/2015/QH、以下「現行刑法」といいます)が正式に効力を有し、旧刑法に取って代わりました。現行刑法はベトナムにおける贈収賄に関するルールを相当な程度変更することを期待されています。この論稿では、現在ベトナムで対外投資を行っている企業が注意すべき現行刑法の贈賄罪に関連する論点につきご説明いたします。

以下が、それら論点についての当事務所の分析の概要です

外国公務員、公共国際組織の職員、私企業の職員に適用される贈収賄の規定

旧刑法の贈収賄罪は「公務」を実施する「公務員」に関する犯罪であり(旧刑法277条)、賄賂を受け取る者はベトナムにおける公務を実施する権限を有する者と解されていました(旧刑法279条及び289条)。同様の条項につき現行刑法によれば、外国公務員、公共国際組織の職員,国有以外の企業,組織の職員と明記されています(現行刑法364条6項)。この条項の適用範囲を具体的に確定する権限を有する機関による実際の施行状況を注視する必要がありますが、現行刑法ではその対象となる賄賂の受領者の範囲が広くなるであろうことに注意が必要です。

現行刑法では、企業は贈賄により処罰されうるのか?

現行刑法で大きく変更された点の一つとして、営利法人が犯罪の主体となりうることがあります(例として、現行刑法の密輸罪188条、200条脱税罪など)。これにつき、旧刑法では自然人の範囲内においてのみ犯罪が規定されていました(旧刑法2条)。しかしながら、営利法人が主体となり得る犯罪の多くは、経済管理、環境に関連するものだけです。現行刑法の関連規定によれば、現行刑法364条による贈賄行為及びその他の賄賂に関連する犯罪は、外国投資資本を有する法人を含めた営利法人を適用対象としていません。

賄賂額と罰則

基本的に、贈賄行為は、賄賂額及び賄賂提供の態様に基づいて処罰されます。下記は、賄賂額及び賄賂提供の態様に関して、旧刑法と新刑法で変更されたものを比較しています

注目すべきは、旧刑法(289条4項)では最も重い刑として終身刑が規定されていましたが、現行刑法では終身刑を廃止しました。その代わりに、最も重い刑として現行刑法は20年の懲役刑を規定するだけです。同時に、現行刑法は2.000.000ドン未満の価値の贈賄の処罰を廃止しましたが、「非物質的利益」(364条1項)を新たに追加しました。非物質的利益とは何かについて判断するガイドラインは出ていませんので、2.000.000ドン未満の価値の贈与が「非物質的利益」と解され、現行刑法下での贈賄罪の対象になり得る危険があります。この問題について、非物質的利益とは「有形でなく、金銭に代えることができないが、受領者を満足させるもの」[1]と理解できるという意見があります。これによれば、2.000.000ドン未満の価値の贈賄については、贈賄罪として2.000.000ドン以上の価値の贈賄する場合だけに規定を有する現行刑法により犯罪構成要素がないと解することができます。つまりは、2.000.000ドン未満の価値の贈賄財産は非物質的利益と解されないので、贈賄罪を構成しません。しかしながら、上記は非物質的利益についての参考的な見解にすぎず、この問題についての正式なガイドラインが出ているわけではありません。それゆえ、この問題についての正式なガイドラインが出るまで慎重な考慮が必要です。

賄賂との戦いは、ベトナム政府にとって最も重要な問題の一つです。賄賂を撲滅するためのルールの実施は、将来にわたってより厳格なものになるでしょう。2016年に現行刑法が効力を有するようになって以来、権限を有する国家機関による同法の施行がより重要なものになっています。しかしながら、これまでに述べたような不十分な部分がまだ残っているのです。

BP アトーニー


Endnote:

[1] 人民裁判所の雑誌「2015年刑法の各職務犯罪についての新しい規定」https://tapchitoaan.vn/bai-viet/phap-luat/nhung-diem-moi-quy-dinh-ve-cac-toi-pham-ve-chuc-vu-trong-blhs-2015;

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