COVID-19は不可抗力の出来事になるのか?

コロナウイルス2019(正式名称はCOVID-19)は、呼吸器に急性の炎症を引き起こす新しいウイルスであり、人から人へ伝染します。COVID-19は世界経済に多大な悪影響を及ぼし、多数の国の政府は国境閉鎖を決めており、世界保健機構(WHO)は国際的に懸念される公衆衛生上の緊急状態(PHEIC)を宣言しました。これは多くの国家の社会-経済活動に対して多大な影響を及ぼすことになりました。

COVID-19が商業的契約の履行に影響を与える法的な出来事であるとの観点から、本記事は、COVID-19を如何に扱うかの問題(多くの場合はCOVID-19を契約終了又は契約履行の延期につながる不可抗力の出来事として扱います)に言及して、それに基づいた法律上の解決方法について関連する企業の皆さまに対してご示唆させていただきます。

不可抗力の出来事

現行の民法典156条によれば、不可抗力とは“予見することができず、必要で能力が許す限りの措置を全て適用したとしても克服することができない、客観的に生じる出来事である”。このように、後述する要素・性質からなる出来事は、法定の不可抗力の出来事として構成されます。

1.客観性:自然災害(洪水、干ばつ、暴風、疫病)、人が自ら引き起こした戦争・暴動、又は第三者の行動(例としては国家の禁止命令)のような客観性が必要です。この出来事が引き起こされるのは、直接間接を問わず、契約の両当事者の一方から生じるいかなる作用によるものでもありません;

2.予見不可能性:予見不可能と理解されるのは、各当事者より生じない事象で各当事者が契約締結時に前もって知ることが全くできないものです;

3.克服不可能性:克服不可能と理解されるのは、(影響を受ける者が)必要で能力が許す限りの措置を適用したにも関わらず、問題の克服ができないことです。

COVID-19は、不可抗力の出来事であるか否か?

ベトナム法令に従った不可抗力の出来事:

客観性について:COVID-19は伝染病であり、地域社会において急速に拡散し、コントロールが難しいものです。

予見不可能性について:COVID-19のウイルスは急速に出現して拡散するので、いかなる当事者も契約締結時点で予見することができません。克服不可能性ですが、この性質が具体的な場合においてCOVID-19が法定の不可抗力性の有無を確定する分析に必要なキーポイントです。

COVID-19の出現と広範囲の拡散は客観性、予見不可能性がある事象と言えます。しかしながら、これが不可抗力の出来事であると証明するためには、“必要で能力が許す限りの措置を全て適用したとしても克服することができない”と言える要素があることを証明しなくてはなりません。COVID-19が不可抗力の出来事と言えるか否かは、 (1)一方当時者(通常の場合は義務履行者)が(この事象を克服するための)必要で能力が許す限りのあらゆる措置を適用済みか否か、及び(2)適用結果がいかなるものか、という取引、契約ごとの具体的な状況次第になります。

例1:物品運送契約で、物品配達場所が病気伝染地であり、その地方の政府によって封鎖されるリスクがある場合、物品運送者が物品購入者に対して連絡して、配達地域が隔離、封鎖される前に配達するべく通常より早く配車をしたが、結果的に時間通りの配達ができなかった。この場合は不可抗力の出来事であると言えます。

例2:レストラン経営のための土地賃貸契約で、疫病発生によって客が来なくなったので、その場所を閉鎖しなくてはならなくなった。その前に、その場所の賃借人は、営業宣伝活動を強化し、衛生状況を改善し、直接的に接触する活動を制限するなどの措置を実施していた。しかしながら、その後、権限を有する国家機関の行政指導により、レストランの営業停止を避けることができなかったのです。この場合も、不可抗力の出来事であると言えます。

このように、できる限りの最大の努力、通常以上の各措置の適用及び“必要で能力が許す限りの全ての措置の適用”が、予見不可能の事象が不可抗力となるか否かの根幹の要素です。

ベトナム法令に従った契約における不可抗力の出来事:

実際には、不可抗力条項は、“ボイラープレート”条項又は基本的な条項、契約書の定型のひな形に従った条項に見え、各当事者が注意を払うことが少ないものです。

しかしながら、不可抗力条項で注意が必要なのは、それが生じた時に当然に責任が免除されるのではなく、契約に違反した当事者が通知と証明の手続をしなくてはなりません[1]。違反当事者が、違反された他方の当時者に直ちに通知手続を行わない場合は、損害賠償をしなくてはなりません[2]

例えば、COVID-19により、物品が運ばれ、運送人が向かう地域が隔離され、又は厳格にコントロールされるようになります。これにより配達の時間が遅れることになります。この場合の配達の遅れは不可抗力であるとして責任免除を検討する必要があります。当然ながら、上記で言及したように、違反した当事者は、責任を免除されるためには、違反をされた他方当事者に通知しなければなりません。不可抗力条項の引用と適用による法律上の結果は、契約の具体的条項によりますが、不可抗力条項の適用による法律上の結果で広く知られているものは、未履行又は履行遅滞に対する責任免除;契約終了;期限延長;契約交渉の再交渉;克服措置の適用…などがあります。

その他の関連事項の検討

契約履行の過程において、不可抗力の規定の他に、2015年民法典は、その420条で“環境が本質的に変化した場合の契約の履行”について規定しています。“環境が本質的に変化した場合の契約の履行”とはどのように理解できるでしょうか?

この条項は契約履行に関する2015年民法典の新しい改正点の一つであり、この法律上の概念は法令文書においてまだ広く解釈されていません。これは重要な意義を持つ規定で、民事的権利義務の確立、実施、終了における信義誠実の原則のような進歩的で国際通例に合致するものです。それによれば、環境の本質的変化とは“契約の均衡性に重大な影響を及ぼす、履行の費用が大きく増加する、又は義務履行により得られる価値が大きく減少する”[3]場合と理解されます。契約当事者の公平性の保障、契約における各当事者の権利・利益のリスクの分散、バランスの再構築のために、2015年民法は環境が本質的に変化した場合の契約履行に関する規定を420条に補充しました。それによれば、この規定は契約の義務履行が特別に困難になった当事者に、他方当事者に対する“合理的期間内”[4]の再交渉を求めることができます。私たちの理解によれば、これは不可抗力に対する別の観点-契約履行ができなくなる場合は不可抗力の結果がより重大なものになる-によるものです。

環境の本質的変化がいかなるものかを確定するためには、2015年民法420条1項に規定されている5つの条件を満たす必要があります。この5つの条件において、不可抗力(の各条件)と比較して、2つが特別なものとなっています:

第1は、420条1項c号:“環境が、もし当事者が事前に知っていたら契約は締結されなかった又は締結されたとしても完全に異なる内容になったという程度まで大きく変化した”。私たちは、変化の程度、その変化した義務に対する影響の程度が環境の本質的変化確定の中心的な条件となると理解しています。

第2に、420条1項d号:“契約内容を変更せずに契約の履行を続けることが一方当事者に重大な損害を生じさせると見込まれる”。私たちは、契約内容、具体的には(本質的/重大な影響を受ける当事者の)義務を規定する条項が変更されない場合、その当事者に重大な損害を引き起こす、ことを意味すると理解しています。ここで言及されている重大な損害とは、損害が発生した場合に一方当事者が契約締結の目的を達成できないものと理解できます。しかしながら、この規定で注意が必要なのは、損害の程度の確定の詳細が述べられているのではなく、損害が重大と見込まれることが述べられていることです。そのため、全ての当事者が損害の重大性に同意できない場合には紛争解決機関(裁判所又は商事仲裁)で解決することになります。

ご提案

不可抗力は法律上の重要な論点です。それによると、経営-商業の契約履行において、各当事者がこの不可抗力の条項を契約に持ち出す場合、不可抗力の要素の確定は法令の規定に従うことになります。不可抗力が問題となる場合、影響を受ける当時者は他方当事者に直ちに通知をする必要があります。各当事者は不可抗力となる具体的場合を合意することもでき、その具体的場合にあたるときは責任が免除されます。契約の交渉、締結、履行の過程にある企業の皆さまにおかれましては、合法的権利・利益を保護し、不必要な紛争を避けるために責任免除の問題、不可抗力及び環境の本質的変化に関して法令に従った規定を置くことが必要です。


[1] 1994年国際商事契約原則6.2.2 。

[2] 2015年民法420条2項 。

[3] 2005年商法294条2項及び295条3項。

[4] 2005年商法295条2項。